『真田丸』の公式ホームページに、直江兼続役の村上新悟さんによる“直江状”朗読の完全版原文現代文の両バージョン公開されました。

でも最初にこのニュースを聞いた時、また村上さんに直江状読ませたのかと正直思ってしまいました。どうもNHKさんは村上さんの低音でよく響く美声を強く推しすぎていることが多いように感じられてw。スタパはまさにそれが顕著に出ていたように思ったんですけど(内容的には村上さんのお人柄もあってすごく面白かったんですが、企画に対してはちょっと…ね 苦笑)、ここにきてなぜまた村上さんが直江状読むことになったんだろうかと疑問があったんですよね 。たしかに村上さんの美声は聴き心地がいいし素敵なんですが、あまりそこばかりフィーチャーしすぎないでほしいなっていう個人的な想いもあったので複雑なものも過りました。声以外の魅力的なところもたくさんある役者さんなので。
で、なぜかと思ったら…この週の「真田丸」では久しぶりに本格的に上杉主従が登場し、家康が二人に「お前ら関ヶ原の時はずいぶん楯突いてくれたよな?」とプレッシャーをかけるというシーンがありまして。これが“直江状”のことを意味しているということでww、集大成の意味も込めて村上さんに完全版を朗読してもらう運びになったそうです。きっかけとしては強引っぽいかな

ただ、実際に公開されたものを見たら、想像以上の力作でちょっとビックリしました。ホームページの企画特集と呼ぶにはあまりにも本格的だったといいますか…なんかすごく感動してしまった
朗読に合わせて村上さんが兼続が直江状を書いた地とされる会津へ赴きプロのカメラマンに撮ってもらったという写真が何枚も登場。兼続の扮装ではなく、『村上新悟』としての写真だったので、会津の兼続ゆかりの地をスーツ姿で歩き、直江状を広げてる写真とかがたくさん出てきてちょっとシュールにも見えるんですけどww、その表情には兼続を宿らせているかのような気迫も感じられて…なんかすごく良いものを見させてもらえたなぁと思いました。

村上さんが実際に訪れたのが福島県の会津。鶴ヶ城・直江兼続屋敷跡・神指城跡とのこと。私たちは『天地人』が放送された年の春に訪れました。

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会津の鶴ヶ城は関東に住んでいるときに好きでよく訪れた場所です。

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兼続屋敷跡は鶴ヶ城のすぐ近くにあります。
※奥にあるのは山鹿素行(江戸時代の兵学者)誕生の碑です。
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村上さんが写真の中でじっくり読んでいたのがこの看板。あぁ、この前に佇んでいたんだなぁと思うとなんだか感慨深いものがありますね

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これが離れたところから見た神指城跡です。『天地人』でもあまり多くは触れられてなかったような気がしますが、ここに築城しようとしていたことが家康に上杉討伐の口実を与えてしまったと云われています。結局城は完成することなく破棄されてそのまま現在に至っているとか。
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村上さんが直江状を読む写真を撮られていたのがたぶんこの神指城跡に佇んでいる高瀬の大木(ケヤキ)の下だと思われます。実際に行くと分かりますが、本当に、ただただ圧巻の凄い大木です。兼続がここに城を作ろうとしたときには既に大きく育っていただろうといわれているところに浪漫を感じました。つまり、この大木は兼続を見ているってことになりますからね。その下で村上さんが直江状を読んだかと思うと、なんか胸が熱くなります

以下、村上さんが朗読した直江状朗読完全版について少し感想を。
 

 まず最初に公開された原文バージョン
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6月頃に村上さんが東京江戸博物館で読み上げたという直江状朗読が一部抜粋として公式HPに公開されましたが、その時と文面も多少変わっているようでした。今回読み上げられたものが一番原文に近いのではないかということで(公式HPの注意書きの文面がおもろかったw)
その、一部抜粋バージョンと聴き比べてみると、明らかに今回の方が『直江兼続』を感じられるものになっていてすごく感動いたしました兼続を演じ切った後の村上さんによる朗読は全くよどみなく自信に満ち溢れていて実に堂々としたもの。家康に対する抗議の意思が鮮明に感じられました。数か月しか違わないのに、この短い期間の間に村上新悟さんは直江兼続の魂と見事にリンクされ成長されたんだなって思いました。その成長の過程を私たちは目撃することができたんだと思うと、ファンになってよかったなって改めて感慨深くなってしまうのです

一番すごいなと思ったのが、原文を聞いているはずなのに村上さんの読みっぷりからその情景が自然と浮かび上がってきたことでした。正直、原文だけでは細かい意味などは素人なので理解するのが難しいです。なのに、村上さんの朗読聴いてると、兼続の感情が手に取るように伝わってくるんですよ。分からないはずなのに、そこにドラマが見えるのです
特に中盤から後半にかけては読み方のテンションも攻撃的に上がって行って、しまいには「ハッハッハッ!!」とチャンチャラおかしいぜ!みたいな感じで高笑いしてからの「一笑」ですから(笑)。もうこの時の、村上兼続の見下したかのような表情が明らかに目の前に浮かんできてしまってw初めて聞いたとき思わず吹きましたww。さらに興奮度が増すと声も高めにそして早口にまくしたてるかのような読みっぷり!!かと思ったら、後半はだんだん落ち着いてきて、それでも嫌味の気持ちだけは消えないみたいな微妙な心の動きも表現。最後は「ちょっと興奮しちゃったけど正直に書いてみただけだから」みたいに読み方も落ち着いていましたね。
もうこの、緩急のつけ方がお見事というほかありません。『直江状』を理解しているからこその読みっぷりだったと思います。原文なのに情景浮かぶし耳が離せないというか、一度聞き始めると逃さないみたいな朗読術が素晴らしかったです

翌日、原文を訳した現代文バージョンも公開されました。
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※この写真、最初ビーカー持ってるのかと思っちゃいましたww

原文を訳した今回の現代文バージョンはもともと村上さんに直江状を理解してもらおうと最初に歴史考証の先生が説明資料として渡したものだったとの事。原文は11分強ありますが、現代文はさらに長い13分強あります。朗読としては長い方だとは思うのですが、不思議と全く長さを感じませんでした。それほど、村上新悟さんの直江状の朗読は聴くものを夢中にさせるだけの魅力があったんだと思います。
現代文バージョンも、けっして簡単な文章というわけではないんですが…聞いていて一つ一つの文章の意味が嘘みたいにスッと自分の中に入ってきて理解できてしまう。13分強聴き終わったとき、率直に、村上さんって本当にすごい素質を持った役者さんなんだなって思いました。

原文よりもさらに感情が伝わりやすい読みっぷりだったと思います。目の前に家康がいてネチネチと嫌味を並び立てているかのような兼続が目に浮かぶようでしたから。「景勝に謀反の心ありとの思し召し、何と言っていいか分かりませぇん」の言い方なんかホント最高でしたよww。もう超上から目線で自分たちの利を語っているかが手に取るようにわかる。あと、榊原康政についてはよほど腹に据えかねるものがあるんだなってこともよく分かりましたw。細かいところを捻じ曲げて誤解招くような報告ばかりして「なんなんだ、あいつは!!」みたいな兼続の苛立ちがすごく伝わってきました。
あと、原文で高笑いしてた部分ですがww、あれは家康が朝鮮が言うこと聞かないなら軍勢派遣するって言ってるっていうのが「ちゃんちゃら可笑しいぜ!」みたいな意味だったわけですね。ここでは高笑いは控えめで、「笑うしかありません」とwww。「一笑」の部分の言い方は現代文バージョンだと小馬鹿にしてるんだけど「ホントわかんないんですけど」みたいな突き放した言い方になってるのが面白いなと思いました

全体的に猛然と家康に嫌味を言いまくって煽ってるんですが、それはすべて主君である景勝を守りたい一心だったんだなっていうのが伝わってくるのもこの現代文バージョンの特徴の一つかなと思いました。ところどころ景勝は田舎武士だからとか小者だからとか下げた言い方してるんだけど、決して主君を下に見ているわけではなくて景勝の考えの方が『義』があり正しいんだと必死に伝えようとしているのが分かります。
これは村上さんが兼続としてエンケンさんの景勝を常に支えようと存在し続けてきたからこそ出せる味なんじゃないのかなと思いました。村上兼続は、御屋形様のためならば何でもやる覚悟があった。あの御屋形様がいたから村上さんの兼続が成立していたっていうのもありますし。今回の大河ドラマでの経験がこの直江状朗読にものすごく生きているんだなって思いました。

本当はもっといろんなこと感じたんだけど、これ以上文章にするのがちょっと難しい

直江状朗読に関して、『村上新悟さんの美声を楽しんでほしい』ってあったけど、これを聴けばそれだけじゃないよっていうことがいろんな人に伝わるんじゃないのかなと思いました。実にドラマチックに、直江兼続として心血注いだかのような…素晴らしい読みっぷりだったと思います。こんなドラマを感じられる朗読ができる役者さんもそうそういないような気がします。村上さんも、直江兼続の集大成だという気持ちで撮影にも朗読にも向き合ってくれたんだと思います。その心意気は十分すぎるほど私の胸に届きました。
最初は「また直江状か…」なんて思ったけど、こんな素晴らしいものを作ってくれたことを本当に感謝します。村上さんと直江兼続の心は繋がっていると感じられた気がしたな。

村上新悟さん、素敵な直江状朗読、ありがとうございました!!

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風が強い日だったようで…、お疲れ様でした。