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2016年12月公開
『海賊と呼ばれた男』 
監督・山崎貴
主演・岡田准一(V6)

長らく更新が滞りすみません。今後、このブログの記事を少し整理して分けようと考えていて構築に回っていたためかなり間が空いてしまいました。色々かたまってきたらまたお知らせします。

今年初の映画鑑賞は昨年末に公開された『海賊と呼ばれた男』です。こちらの方では上映回数が既に少なくなり、終了しそうな雰囲気だったので…まさにギリギリでの鑑賞となりました。
百田尚樹さんの原作と山崎貴監督とのコラボ作品は『永遠の0』で以前見てとても感動していたので、この作品もぜひ見てみたいと思っていたので、何とか終わる前に見ることができてよかったです。ちなみにまだ原作は読んでいません。原作未読での感想になります。

どんな内容なのかもほとんどわからないまま、ほぼまっさらな気持ちで『海賊~』を見に行ったわけですが、実在されていた方をモデルにした作品だったんですね。戦中から戦後、高度経済成長期を迎えるまであたりを中心に時代を行き来させながら描かれていたのが印象的です。
モデルになっているのは石油会社で有名な出光興産の創業者・出光佐三さんだそうです。欧米列強の時代に日本を主張して対抗した人物がいたということを恥ずかしながら今回初めて知りました。日章丸事件とかも知らなかったので、そういう歴史があったということが分かっただけでもこの映画を観れてよかったと思います。

主人公の國岡鐡造を演じたV6の岡田准一君は、アイドルだということが嘘のような役者っぷりで冒頭からビックリしました!戦後すぐの時に会社に人を集めて「愚痴はやめよう」と説くシーンから始まるんですけど、最初、あれが岡田くんだって分からなかったくらいです。メイクもよくできていたっていうのもありましたが、それ以上に声の出し方や風格がもう、60代の男性そのものだったんですよ。それにオーラがものすごい!!共演者に大物俳優さんが何人か配役されていましたが、彼らと並んでも全く負けていなかった。
これまで岡田くんの主演作をいくつか見てきましたが、その中でもこの映画の中の彼の存在感はハンパなくすごかったです。アイドルであそこまでの風格を出せる人ってあまりいないんじゃないでしょうか。

石油をガンガン売りつけてイケイケ状態の鐡造の芝居もすごく良かったんですが、個人的には妻のユキさんとの短くも温かいやり取りとその後に訪れる悲劇のシーンがすごく印象深いです。
ユキを演じた綾瀬はるかさんがまた素晴らしかったんですよね~。出番としては決して多くないし、キャラ的にも控えめで一方後ろに引いたような昭和の良妻という感じでしたが、熱い男たちの中に咲く癒しの花のような存在感でものすごく目を惹きました。
そんなユキさんとのやりとりがある悲劇を迎えた時の、岡田くんの絶望感を表現した芝居が実に素晴らしくて…思わず涙が出ました。やりきれない気持ちと悔恨や絶望…そういったものが大粒の零れ落ちる涙に含まれていてねぇ…。岡田くんの泣きの芝居は大河ドラマの『軍師官兵衛』の時から注目していましたが、この映画の中ではさらにその表現に磨きがかかっているように思えました。

映画の半分以上は60代以上という難役を、岡田くんはものの見事にやってのけてます。あの時代を戦った男の顔でした。改めてすごい役者に進化しているなと感じました。

以下、映画の内容に触れる形で他のキャストさんについてもう少し。




鐡造のライバルとして立ちふさがる石統の鳥川を演じた國村準さんのさすがの存在感も見逃せないところでしたね。鐡造の壁として不気味に、そして静かに対抗する芝居は圧巻です。やがて鳥川は欧米列強に屈しない鐡造の戦う姿を少しずつ受け入れていくのですが、その微妙な心の動きの表現なんかも素晴らしかったですね。
「あんた、海賊と呼ばれていたんだってな」
この一言に、鳥川の心の変化がちゃんと表れていましたから。國村さん、さすがだなぁと思いました。

日承丸事件のくだりはこの映画のクライマックス的事件として描かれていて印象深かったです。(史実では日章丸だそう)

國岡商店がいよいよ欧米列強の圧力に押し潰されそうになった時、鐡造が起死回生として思いついたのがイランとの取引を始めることでした。イランは当時、欧米(とくにイギリス)から石油を巡ってとても圧迫された生活を強いられていて、そこと取引しようものなら拿捕されたり最悪攻撃を受けるといったリスクを含んでいたそう。社員からの大反対を押し切って鐡造がそのイランとの取引を強引に進めようとするドラマ部分はまさに熱い男のぶつかり合いで目が離せませんでした。彼がそこまで進めようとする理由の一つに、石油の開拓という名目で戦中に南方へ派遣させていた染谷くん演じる長谷部の存在があって…。長谷部と鐡造は戦前の苦しい時代に共に欧米企業に立ち向かった戦友でもありました。しかし再び南方へ戻る途中で長谷部の機体は撃墜され志半ばで彼は命を落としてしまった経緯があり、鐡造はその想いを背負う為にも石油を諦められないという想いが強かったんですよね。
そんな鐡造に真っ向から反論した吉岡さん演じる東雲の気持ちも痛いほどわかる。「またあなたは部下を戦場へ向かわせるのですか!」と長谷部の写真を見せながら迫るシーンは涙が出ました。東雲もまた戦地で生きるか死ぬかの経験をしてきているわけで、もうこれ以上危ない橋を渡って危険な目に遭う人を出したくないという想いが強かったんですよね。
それぞれが、みんな、色んな想いを背負って、そして飲みこんで、イランと石油の取引をするという決断に向かっていく。見応えのあるドラマシーンだったと思います。

その、日承丸の船長役だったのが堤真一さん。ここで堤さん出てくるとは思わなかったのでちょっとビックリしました。あの立派な船を任せるだけのオーラとしては堤さんは適任でしたね。出向前に一人だけ鐡造からイラン行きを告げられてた時、「店主の言う通り向かうだけです」と静かに答える場面は短いながらもグッときました。
出向して暫くした後に船員たちにイランへ行く事実が告げられるわけですが、始め戸惑った彼らが日本の誇りだと気持ちを新たに困難に立ち向かう想いを高めていくシーンも泣けました。戦場で生きるか死ぬかのギリギリの体験をしてきた者ばかりだったからです…。
船長の盛田の見せ場はイランからの帰路。イギリスの軍艦と鉢合わせした時、突っ切る決断をしたときの緊迫感と確固たる信念の芝居が素晴らしかったです、堤さん。この船長に任せれば日承丸は大丈夫だという安心感みたいなものもあった。

こんなに大変な想いまでして、あの当時石油を日本に運び入れていたのかと思ったら…知らなかったことが少し恥ずかしくなりました。

あと印象に残った役者さんとしては、英語力堪能な武智を演じた鈴木亮平くん。久しぶりに彼の英語を聴きましたが、もう本当に現地の人と同じなめらかすぎる発音が素晴らしい水面下でクールに國岡商店を英語力で支えつつも、実は鐡造に熱い思いを抱いている武智役が実にハマっていました!

岡田くんはその後も80代、90代まで演じ分けていてホント凄かったです。最後にユキの本当の想いを知って涙するシーンは見ているこちらも思わず落涙
臨終の際に鐡造が見た若い頃の活気あふれる『海賊』だった自分たちの姿の夢。鐡造は見事にその命を使い切ったのだなと思える素敵なラストでした。

多少、その描写ちょっと違和感…というシーンもありましたが、全体的にはとてもいい作品だったと思います。岡田くんの熱演が観れるという点だけとっても見る価値のある映画ではないでしょうか。

今度から出光石油を町で見るたび、この映画のことを思い出してしまいそう。