先日、某サイトで久しぶりに大好きだったドラマが流れていたので思わず見入ってしまいました。かなり前の作品なので知らない方も多いかと思いますが、今でも心の中で大切にしたい一作です。

1996年 テレビ朝日系
『イグアナの娘』 
主演・菅野美穂 原作・萩尾望都


タイトルを聞いたら、コメディか何かだと思ってしまう人も多いかもしれません。放送前、原作を知らなかった私もそう思ってた一人ですので(笑)。 しかしながらこれは、大真面目な人間ドラマなんですよね。描かれているエピソードは胸が痛くなるようなものも多いんですが、どの回にも心の中がどうしようもなく温かくなる優しい何かがあるのです。後半に行けばいくほど泣けて、クライマックスは号泣しました
この前久しぶりに見たんですけど、放送当時感じた胸震える感動は全く変わっていませんでした。本当に大好きなドラマです。

主演の菅野美穂さんの透明感あふれる演技が今見ても本当に素晴らしいです。物語全体のピュアなイメージを崩すことなく、もがきながらもひたむきに必死に前を向こうと頑張る姿にものすごく共感させられました。
菅野さんと同年代の当時若い役者さんのお芝居は正直、今の若い役者さんに比べると未熟さを感じるんですが(今大活躍してる岡田義徳くんもこの当時は素朴な感じだった)、菅野さんの芝居がとても安定しているので逆にピュアで新鮮に思えてしまうという。今のドラマではなかなかこういう雰囲気のものは出ないのではないかと。 

そんな菅野さんと同じレベルで心を打つ芝居を魅せてくれているのが親友役を演じた佐藤仁美さんです。最近ではぶっちゃけキャラみたいな感じでバラエティに出ていますがw、この作品の中での佐藤さんの温かい芝居はもう見てるだけで涙を誘うほど誠実でピュアです。ぜひこの頃の佐藤さんを見てほしい。

そして忘れてはいけないのが今は亡き川島なお美さんの迫真の芝居と、現在大河ドラマ「真田丸」で人気沸騰中の草刈正雄さんの寛大な愛情あふれる芝居です。鬼気迫る川島さんの熱演と、いつも温かく包み込む優しさを演じた草刈さんのコンビは圧倒的な存在感を放っており見ごたえ十分です。
川島さんのイメージは失楽園よりも個人的にはこのイグアナの娘の母親役の方が鮮烈に残っていたので、昨年亡くなられたというニュースを知った時は本当にショックでした


あと、ドラマ全体に流れる優しい音楽がこれまた素晴らしかった。

寺嶋民哉さんは、今でも大好きな作曲家さん。CDも持ってていまだに聴いてます。ドラマの世界感にドンピシャでハマってたんですよね、この音楽。
さらには主題歌にエルトン・ジョン「YOUR SONG」を充てたのも大きいです。物語の最後にこれが流れると本当に必然的に涙があふれたという・・・こちらもイグアナの娘の世界にぴったりハマってたんですよね。DVDには版権の問題とやらでエルトンジョンの歌声入りのは入っていないそうですが、CSでたまに再放送されたりするもの(先日の動画サイトでも)はオリジナルが流れているとの事。


以下、追記で少しドラマのネタバレ内容に触れたいと思います。


 


このドラマの中で特に印象深かったのが、主人公・リカと母・ゆりこ母子関係リカ伸子親友関係です。

優しい正則と結婚したゆりこは最初に産んだ娘リカがイグアナに見えてしまい激しいショックを受け、どうしても愛することができない。二番目に産まれた妹のまみは 普通の女の子に見えるので接し方が妹の方にばかり向いてしまう。
母親から愛されず、暗い性格に育ってしまったリカの心を一番支えたのは転校してきた伸子だった。時に厳しく、時に温かくリカと接する伸子はかつて自分も周囲から孤立した過去があった。
次第に明るさを取り戻していくリカ。しかし、そんな矢先に大きな悲劇に見舞われてしまう…

おおまかなストーリーはこんな感じです。


母と娘

川島さん演じるゆりこはどうにもこうにもリカがイグアナにしか見えないことにひたすら苦しみます。ストーリー上はとことんリカに辛く当たるのですが、なぜか不思議とそこに嫌悪感がないんですよね。というのは、ゆりこは心の奥底では リカのことをものすごく愛していると感じてしまうからなんです。最後までリカの前ではそういった素振りは見せないのに、一人になった時に少女時代のリカがプレゼントしてくれたものを抱きしめたりしている(プレゼントをもらった時はものすごく邪険にしたためショックを受けたリカは自殺未遂をしてしまうんだけど)
そんなゆりこを常に大きな愛で見つめていたのが草刈さんが演じた父・正則です。イグアナに見える娘に悩み苦しむ彼女の姿を見て「君はリカを愛しすぎているんだよ」と指摘するシーンがものすごく印象深かったです。リカに対しては本当に辛辣な行いばかりしていたゆりこですが、その行動は無意識にイグアナに見えてしまう娘を過剰に守ろうとして起こしているものなんだと見ているこちらも感じるものがある。根底にはがあるんですよね。

リカにはその歪んだ愛情が伝わってた。だからどんな仕打ちを受けても結局は母親を受け入れてしまう。「お母さんが一番私のことをわかってくれている」と。リカ自身も自分がイグアナに見えてしまうので母の過剰な行動を最後には受け止めちゃうんですよね。
でも、親友の伸子や恋する昇と接する中でリカは徐々に自我が芽生えやがて家族から独立することになります。高校卒業後には昇と共に海外へ行くところまで成長した時、ゆりこは悲壮な覚悟でその前に家族旅行をしようと提案。ここで最後の母と娘のドラマがあるのですが 、これがものすごく泣けます…!!

「お母さんがそうしたいなら、わたし、いいよ」

「死ぬより、嫌なの?」

この二つのリカのセリフに涙が止まりませんでした。ここのシーンは最初からストーリーを追ってきたうえで見るからこその切なさに溢れています。

そして、『イグアナの娘』というタイトルの意味が確信に変わる物語のクライマックス。これ、第1話の時点でも大筋のことは明かしているのですが、最終回でもう一度そのあたりの真相を聞くとものすごく胸にグッとくるものを感じます。
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すべての苦しみから二人が解放された時、それがどんな結末であっても温かく優しい幸福感が見る者の胸を打ちます。世知辛い昨今にこの物語を見ると余計沁みるものがあると思います。


親友

『イグアナの娘』は母娘関係を主に描いた作品ですが、それと同じくらいどうしようもなく心揺さぶられたのはリカと伸子の友情物語です。
リカのクラスに転校してきた伸子は過去に周囲から孤立してしまい辛い想いをした経験を持っていました。そんな彼女は自分の殻に閉じこもりいつも怯えていたリカにかつての自分を重ねる。泣きながら「私だって変わりたい」と叫んだリカの言葉に涙を見せながらふと優しい笑顔で
「ともだちに、なろう」
と語りかける最初の二人のシーンがもう、本当に泣けます。リカにとっては初めての親友。自分を理解してくれるともだちの存在がいかに大きな力になるかということを、伸子は知っていたんですよね。

リカがどんな辛い立場になっても、伸子は優しく・・・時に厳しく常にリカの心を支えます。もう、本当にあんな親友がいたらどんなに幸せかって思いますよ。泣けてくるくらい伸子は本当に素敵な子でした

一番印象深いのが、明るくなってきたリカが母親の衝撃的な告白で再び心を閉ざしてしまった時のシーン。家を飛び出し行方不明になったリカを探し出し、完全に心が崩壊した彼女がこれ以上闇に落ちないように必死に抱きしめる伸子…。家に戻りたくないというリカが落ち着くまで理由も聞かずに自宅に泊めてそっと心に寄り添い続けるんです。この時に出てくる伸子のお母さんもまたすごく温かくて泣けるんですよね…。
その優しさに触れて自分を取り戻していったリカは、初めて自ら、自分の抱えていた秘密を告白。

「わたしね・・・・イグアナなの・・・」

「・・・しんじる・・・!私は、信じるよ・・・!!」

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伸子のこの言葉に号泣です。リカが自ら勇気を振り絞って告白したのって、伸子が最初で最後の人なんですよね(ドラマでは)。だから、この伸子の凛とした言葉がなおさら泣けるんです。本当に伸子、良い子だよ…!!
しかし、その直後に残酷な出来事が起こってしまうんですよね…。それが第9回。たぶん『イグアナの娘』のなかで一番泣いた回かもしれない。どうしようもない哀しみからリカが再生していくまでをとても丁寧に優しく描いています。特に、手紙のシーンはものすごく印象深いです。このエピソードはぜひ多くの人に見てほしいところです。


他にも、家族との絆や昇との淡い恋物語、友達との和解など・・・色んなドラマがある『イグアナの娘』。岡田恵和さんのドラマチックで温かみのあるストーリーは今も色褪せず心に響くものがあります。
人の心の複雑さと温かさを素直に優しく描いた秀作。最近は時代の変化と共にこういうドラマを見ることが本当に少なくなってしまったように思います。それだけに貴重。改めて良いドラマだったなぁと思います。興味があればぜひ。

いぐあな
ちなみに、イグアナのリカってこんな感じ。私にはとても可愛く見えます。表情もけっこう豊かで、リカが自立して笑顔で鏡を眺めるシーンの時のイグアナちゃんは愛しさすら感じます
こういうシーンがちょいちょい出てきながら、泣けてしまうって・・・ほんと、『イグアナの娘』ってすごいドラマだったなぁと思う次第です。