IMG_20170319_171035

日本でも人気の高いミュージカル『ミス・サイゴン』。2014年にイギリス・ロンドンで行われた25周年記念公演が、日本公演25周年に併せて映画公開されました。
私は初演の頃からこの作品を見ているので、どうしても1度は映画館の大スクリーンで見てみたかったのですが…如何せん、主要大都市しか上映予定がなくガックリ。観に行くのは断念だなと諦めていたところ、大阪へ行く用事が映画公開時期と運良く重なり観に行くことができました!!私が見に行った数日後に梅田での上演は終わってしまったようなので本当にギリギリ…ラッキーでした。

ちなみに映画料金は他とは別に設定されていて一律2500円。舞台と同じく1幕と2幕の間に休憩が挟まっているのも特徴的。さらには2幕が終わった後の特別カーテンコール(スペシャルフィナーレ)前にも10分の休憩があって…映画を見に行っているのに舞台を一本見たような気持になりましたw。
映画の料金として見ると少しお高めの設定ではありますが、臨場感あるし本場の舞台映像と音を体感できるという意味ではこの金額はかなりお得。客席数が少なめだったためか私が見た回(1日1回きり上映)は満席…。当日券が売り切れていたので、予約して行って本当に正解でした


さて、映画についてですが・・・まず驚かされたのが映像の臨場感です。基本的にはロンドンで行われた25周年記念公演の模様がベースになっていますが、所々は後日別にキャストだけ集めて映画用に撮影した映像を挟んでいるそうです。なので、客席からは見えないような角度の風景やキャストの表情が間近にものすごくリアルに感じられて…舞台の最前列で観る以上の迫力がありました
舞台映像には変わりないんだけど、時々そこが舞台の上ではないような感覚になることもしばしば。実写映画としてのドラマを見ているかのような錯覚になるあのリアルさは本当にすごかったです。舞台映像であそこまで臨場感を感じたのはこれが初めてだったかも。

それから、キャストが『ミス・サイゴン』の世界観にすごくマッチしているというのも印象的でした。
この物語はベトナム戦争の悲劇を描いているので、登場人物の多くはベトナム人…つまりアジア系。なので、顔かたちがアジア系の役者さんが多く配役されているのが特徴的です。ベトナム人役の役者さんはアジア系の顔立ちでアメリカ人役の役者さんは欧米系の顔立ち。アメリカ人役は白人と黒人が入り混じっている配役になっているので余計リアルな当時の様子を感じることができました。
日本版は当然のことながらみんなアジア系役者なので、ベトナムとアメリカの本物感といった点では表現しづらい部分はあります(エレン役の役者は時々金髪のかつらをつけていたりしましたが)

もう一つ感じたのが、日本の『ミス・サイゴン』も引けを取らないなってことでした。
来日公演などを見て「日本はまだ追いつけないことも多いんだな」と感じることって時々あったりするんですが、今回は「日本版も負けてないな」って思えたんです。それはキャストにもよるところはあるのですが、個人的に最高だったなと思えるキャストが出ていた日本公演とロンドン公演の映像とを思い比べてみた時、大きな差みたいなものを感じなかったんですよね。それがなんかちょっと嬉しかったです

そうそう、字幕について。字幕表記が亡くなられた「岩谷時子」さんになっていたのが胸熱…。『ミス・サイゴン』日本公演の初演舞台の訳詩を手掛けたのは岩谷時子さんでした。
再演を繰り返すうちに、岩谷さんの訳詩がだいぶ変更されてしまい…最新版では「いくら分かりやすくとはいえその訳詩はどうよ」って思ってしまうような過激なフレーズも増えて残念に思うこともありましたなので、今回久しぶりに初演に近い形の岩谷さんが訳詩されたものが字幕で出てきたときはすごくホッとしましたね。次に再演する時は、また初演に近い訳詩に戻してほしいです…。十分伝わるんで。


ちょっと残念に思ったところは…実際の舞台公演映像がベースになっていたためにお客さんの派手な拍手が入ることだったかな
日本でもビッグナンバーのあとなどには拍手が入ることがほとんどなのですが、海外のお客さんの拍手は日本のそれとはだいぶ雰囲気が違うんです。どんなシリアスなシーンでも、素晴らしい歌声でドラマを盛り上げるナンバーがあった後はまるでコンサート会場か!?ってほどの歓声と拍手が鳴り響く。素晴らしいと思った芸術には惜しみない賞賛を贈るっていうスタンスは分かるのですが、その表現方法が日本人とは少し違う気がするんですよね。日本人は素晴らしい歌の後に拍手を送るけど、ほとんどの人は作品のストーリーに浸っているのでその後の展開を邪魔しないような拍手をしているように思います。私はそうしているかな。
だけど、海外の人はその場その場で素晴らしいものに最大限の賛辞を贈るという意味で大歓声が毎回湧き起こる。ストーリーよりも、演じ手に対する称賛が熱い。これはたぶんお国柄かな~。たぶん海外の人が日本の公演を見ると「客の反応が薄い」って思ってしまうのかもしれない。
今回の映画はそんな感じで…どんなにシリアスな流れでもナンバーが終わるごとにコンサート並みの大歓声が入ってくるので、ちょっとそこで流れが止まっちゃう感覚は正直ありました。素晴らしいキャストによる最高のパフォーマンスの世界にどっぷり浸りたいと思う派の私的にはそこの違和感だけが残念な点でしたね。


以下、内容について少し。



<ロンドン25周年記念公演の主なキャスト>

エンジニア:ジョン・ジョン・ブリオネス
キム:エバ・ノブルザダ
クリス:アリスター・ブラマー
エレン:タムシン・キャロル
ジョン:ヒュー・メイナード
トゥイ:ホン・グァンホ
ジジ:レイシェル・アン・ゴー

<ストーリー>

ベトナム戦争で家族を失ったキムエンジニアに誘われナイトクラブで働くことに。狂乱の世界に戸惑う中、唯一「人」として接してくれたクリスと出会い彼に恋をしてしまうキム。クリスもベトナム戦争で心身ともに疲弊していたためキムに新たな希望を見出しの彼女にのめり込んでいく。
しかし、その直後にアメリカ兵は強制的にベトナムから退去。キムとクリスも引き裂かれてしまう。3年後、以前からキムに想いを寄せていたトゥイはキムと一緒になろうと強引に迫る。しかし彼女はクリスの子供を産んでいて彼のことを深く愛する気持ちに揺るぎがなかったため拒絶。クリスとの子供・タムを見せられたトゥイはショックのあまり逆上し殺害しようとするが、子供を守ろうとしたキムによって撃ち殺されてしまう。
アメリカでの成功を夢見るエンジニアと再会したキムはまずバンコクへ渡り、アメリカ行きの機会をうかがう。そんな時、クリスの同僚のジョンが訪ねてきてクリスがバンコクに来たことを知る。キムは喜び勇んで会いに行くものの、そこに居たのはクリスの妻となったアメリカ人のエレンだった…。大きな衝撃を受けたキムは独りである決断を下す。


この物語は、正直、ハッピーエンドで終わりません。ラストシーンはただ衝撃の一言です。それなのになぜこんなにも惹き付けられるのか…といえば、それはドラマチックな音楽の力がとても大きいと思います。この作品は物語の悲劇性もズシンとくるものがあるのですが、それ以上に一つ一つの曲の持つ力が本当に素晴らしくて見る者の心を捉えて離さない。やっぱりミュージカルってすごい芸術だなって、今回映画を見て改めて思いました。

キムを演じたエバは25周年記念の頃はまだ二十歳だったそう!初めてキム役に抜擢された時は何と17歳で、劇中のキムと同じ年齢だったというから驚きです。まさにリアルなキムだったわけですね!!歌声も表情も見る者の心を打つ表現力で、その健気さに何度も涙させられました。

エンジニアを演じたジョン・ジョンはものすごいエネルギッシュ!!今までの日本人キャストでは見たことがなかったようなギラギラ感がすごくて眩しかったです。今年からエンジニア役を演じたユカイさんはこの方の芝居を参考にされたそうですね。まだジョン・ジョンさんには及ばなかったと思いますが頑張ってほしいです。ちなみに、日本では市村さんでしか反応がほぼ起こらないww「はい、ホーチミン♪」と歌ってアドリブ入れるシーン。日本人キャストはここのアドリブが長くなりがちなんですが、ジョン・ジョンは短くスパっとやってて清々しかった。日本はその場面でスベるキャストが多いので、あのくらいがちょうどいいかもw。

クリスを演じたアリスター・ブラマーは西洋風の顔立ちなのでアメリカ人兵士役がものすごくリアルに見えましたね。歌声も素晴らしく、キムとのラブシーンも愛情がこもっていて美しかった。印象的だったのがキムに「婚礼で歌う歌」と言われた時の「え!?」って表情。日本でもその表情をしていますが、ブラマーさんの表情はそれ以上になんだかとてもリアルに見えました。それだけに、キムの「ほかに知らないの」と歌う時の不安そうな顔が切なかったです

ジョンを演じたヒュー・メイナードは黒人の役者さん。レゲエ風なヘアスタイルが独特で、多種多様なアメリカ兵という設定にリアルさをさらに加えていたように思います。「ブイ・ドイ」の時のクライマックスに向けた歌いっぷりは説得力があって熱く印象に残りました。

エレンを演じたタムシン・キャロルさんはクリスよりもかなり年上っぽく見えてちょっとビックリしました。日本でも姉さん女房的な女優さんが演じることがありますが、この方はそのさらに上をいくというか…貫禄がすごいw。クリスの妻というよりも、時々クリスの母に見えそうになって焦りましたw

トゥイを演じたのは韓国の舞台役者のホン・グァンホ。彼はとても上手かったですね~。かなり私好みのトゥイを演じてくれていたのですごく感情移入できました。特にタムを手にかけようとする瞬間の泣きそう表情がすごく切なくてよかった…!いつか日本の役者もこういう場で活躍できればいいなって思いました。

ジジを演じたレイチェルもすごく巧かったと思います。ジジは最初のほうがメインで後半は出番がないため存在感を出すのが難しいと思うのですが、最初に与えるインパクトがすごく大きくて印象に残りました。


休憩を挟んだあとのグランドフィナーレでは、初演でキムを演じたレア・サロンガ、クリスを演じたサイモン・ボウマン、そしてエンジニアを演じたジョナサン・プライスなど歴代キャストが勢ぞろい

「The Movie In My Mind」のナンバーをレアとジジ役のレイチェルがデュエットしたあと、レアが「あの子本当に上手くって参っちゃうわ」ってコメントしてたのが面白かった。それにしても、レア・サロンガさんは若いですねぇ!!他の往年のキャストさんたちがそれなりに年を重ねていたのに、レアはとても若々しかった。
「Last Night of the World」では新旧のキムとクリスが登場して時に入れ替わってじゃれ合いながら歌ったりしてたのも笑えましたww。ああいうのは海外ならではの光景だなって思いましたね。日本だと一歩間違うと引かれてしまうかも
そして「American Dream」ではジョナサン・プライスが登場してたまに「俺の介護に来てくれたぜ」とかジョーク言いながら熱唱w。キャデラックにはプロデューサーのマッキントッシュや作曲のシェーンベルクや脚本のブーブリルも乗って出てきて大きく盛り上がりました!

ああいうカーテンコールを見ると、ミュージカルって素晴らしいなって改めて感動してしまったなぁ…。新旧のキャストが大集合しての大団円はこれから先も生き続ける『ミス・サイゴン』を象徴しているようで嬉しかったです。



この映画、大都市だけの公開になりそうなのが勿体ない。もっと多くの人にこの作品の素晴らしさを体感してほしいなと思いました。


2017年の大阪公演の感想はこちらです。
この映画を見たらまた『ミス・サイゴン』を観に行きたくなりました。早い時期に再演しますように。